東京地方裁判所 昭和55年(ワ)13496号 判決 1981年9月21日
原告
渡辺博
ほか一名
被告
青山勝
主文
一 被告らは、各自、原告渡辺博に対し、金五〇六万四一四二円及び内金四六六万四一四二円に対する昭和五五年六月二三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、各自、原告渡辺文子に対し、金四八五万二九八二円及び内金四四五万二九八二円に対する昭和五五年六月二三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの、その余は被告らの、各負担とする。
五 この判決は、一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らは、各自、原告渡辺博(以下、原告博という。)に対し金五八五万三二四〇円及び内金五三二万一二四〇円に対する昭和五五年六月二三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、原告渡辺文子(以下、原告文子という。)に対し、金四八九万八一四〇円及び内金四四五万三一四〇円に対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
原告らの各請求をいずれも棄却する。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五五年六月二二日午後六時三〇分ころ。
(二) 場所 埼玉県所沢市大字上安松六一五番二号先路上
(三) 加害車 普通貨物自動車
右運転者 被告佐藤昭一郎(以下、被告佐藤という。)
(四) 被害者 訴外亡渡辺浩之(以下、浩之という。)
(五) 態様 亡浩之が道路端の電柱の高さ一メートル位の所に登つて遊んでいたところ、加害車を運転して同所を進行して来た被告佐藤が、加害車を浩之に接触させて転落させた上、轢過したため、浩之は頭蓋内出血により死亡した。
2 責任原因
(一) 被告佐藤
被告佐藤は、加害車を運転して廃品回収のため、幅員約三・五メートルの本件交通事故現場の道路を南から北へ進行していたところ、現場手前の私道方向に気をとられていたため、浩之に気づかず、加害車を道路左側端に寄せすぎて進行した結果、浩之に接触させたもので、前方を充分注意しなかつた過失がある。
(二) 被告青山勝(以下、被告青山という。)
被告青山は、加害車を所有し、これを被告佐藤に使用させて廃品の回収をさせ、回収した廃品を買い取る一方、車両の使用料を徴するなどして収益を図つていたもので、加害車を被告佐藤に運転させ、自己のために運行の用に供していた者である。
3 損害
(一) 亡浩之の損害
浩之は、前記のとおり、本件交通事故による受傷のため間もなく死亡し、これにより、次のような損害を被つた。
(1) 逸失利益 金一六七六万六二八〇円
亡浩之は、昭和四八年二月一三日生れ、事故(死亡)当時七歳の健康な男子であつて、本件交通事故にあわなければ、満一八歳から六七歳まで労働して収入を得られるはずであつたところ、昭和五四年賃金センサス第一巻第一表の産業計・規模計・学歴計の男子労働者の平均賃金によつて年収を算定すると、金三一五万六六〇〇円であり、これを基礎として亡浩之の得べかりし収入をライプニツツ式計算法によつて算定し、生活費(五〇パーセント)を控除すれば、次の計算式により、金一六七六万六二八〇円となる。
3,156,600×10,623×(1-0.5)=16,766,280
(2) 慰藉料 金四〇〇万円
浩之は、本件交通事故により七歳の若さで死亡させられ、極めて大きな精神的苦痛を受けた。これを慰藉するには、金四〇〇万円を相当とする。
(3) 以上を合計すると、金二〇七六万六二八〇円となる。
(二) 相続
原告らは、亡浩之の実父母であり、各自、亡浩之の金二〇七六万六二八〇円の損害賠償請求権の二分の一ずつを相続したのであるから、それぞれ金一〇三八万三一四〇円の損害賠償請求権を取得した。
(三) 原告博の分
(1) 診療関係費 金六万一一六〇円
原告博は、昭和五五年六月及び八月に本件交通事故による亡浩之の診療費として金五万一一六〇円、文書料として金一万円、合計金六万一一六〇円を支払い、同額の損害を被つた。
(2) 葬儀関係費 金一一五万六九四〇円
(イ) 葬祭費用等 金八一万六九四〇円
原告博は、亡浩之の葬儀を行い、その費用として、葬儀社等に金八一万六九四〇円を支払つた。
(ロ) 墓地使用料等 金三四万円
原告博は、亡浩之のため墓地の使用権を取得し、使用料として金一二万円、工事代金として金二二万円、合計金三四万円を支払つた。
(3) 慰藉料 金三〇〇万円
原告博は、本件交通事故のため次男浩之を失つたことにより父親として甚大な精神的苦痛を受けたが、これを慰藉するには金三〇〇万円が相当である。
(4) 弁護士費用 金五三万二〇〇〇円
被告らは任意にその弁済をしないので、原告らは、原告ら訴訟代理人に訴訟の提起及び追行を委任し、その費用及び報酬として、第一審判決言渡の日に、その認容額の一割を下らない額の支払いを約しているが、その額は、原告博につき金五三万二〇〇〇円を下らない。
(5) 損害の填補 金九二八万円
原告博は、昭和五五年一〇月二日自動車損害賠償責任保険から金九二八万円の支払いを受けた。
(6) 請求額の合計 金五八五万三二四〇円
原告博の有する損害賠償請求権の金額は、亡浩之の相続分一〇三八万三一四〇円と右(1)ないし(3)とを合算した金一四六〇万一二四〇円から右(5)の損害の填補金九二八万円を控除した金五三二万一二四〇円に、右(4)の弁護士費用金五三万二〇〇〇円を加えた、金五八五万三二四〇円である。
(四) 原告文子の分
(1) 慰藉料 金三〇〇万円
原告文子は、本件交通事故のため次男浩之を失つたことにより母親として甚大な精神的苦痛を受けたが、これを慰藉するには金三〇〇万円が相当である。
(2) 弁護士費用 金四四万五〇〇〇円
前記のとおりであつて、弁護士費用は原告文子につき金四四万五〇〇〇円を下らない。
(3) 損害の填補 金八九三万円
原告文子は、昭和五五年一〇月二日自動車損害賠償責任保険から金八九三万円の支払いを受けた。
(4) 請求額の合計 金四八九万八一四〇円
原告文子の有する損害賠償請求権の金額は、亡浩之の相続分金一〇三八万三一四〇円と右(1)との合算額金一三三八万三一四〇円から右(3)の損害の填補金八九三万円を控除した金四四五万三一四〇円に、右(2)の弁護士費用金四四万五〇〇〇円を加えた金四八九万八一四〇円である。
4 結論
以上のとおり、被告両名各自に対し、原告博は本件交通事故に基づく損害賠償金金五八五万三二四〇円及び内金五三二万一二四〇円に対する不法行為日の翌日である昭和五五年六月二三日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告文子は同じく金四八九万八一四〇円及び内金四四五万三一四〇円に対する右同日から支払ずみまで同じく年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求める。
二 請求の原因に対する認否
1 被告青山
請求の原因1の事実は知らない。
同2の(二)の事実のうち、被告青山が加害車を所有していたこと、これを被告佐藤に使用させ、廃品回収業をさせていたことは認めるが、その余の事実は争う。
同3の事実のうち、自動車損害賠償責任保険から、原告博が金九二八万円、原告文子が金八九三万円の支払いを受けたことは認めるが、その余の事実は争う。
2 被告佐藤
請求の原因1の事実のうち、被告佐藤が加害車を運転して原告ら主張の日時場所を通りかかつたこと、亡浩之が道路側端の電柱に登つて遊んでいたことは認めるが、浩之が頭蓋内出血により死亡したことは知らない。その余の事実は否認する。
同2の事実のうち、被告佐藤が廃品回収業をしていたこと、電柱に登つていた浩之に気ずかなかつたことは認めるが、その余の事実は争う。
同3の事実のうち、自動車損害賠償責任保険から、原告博が金九二八万円、原告文子が金八九三万円の支払いを受けたことは認めるが、原告らが亡浩之の実父母であることは知らない。その余の事実は争う。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 被告らの責任原因
弁論の全趣旨から真正に成立したものと認める甲第二七号証の四ないし一一、一三ないし一六を総合すると、次の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
被告青山は、加害車のほか同種の車を所有して廃品回収業を営んでおり、被告佐藤は、昭和五五年五月頃から被告青山から加害車を一日五〇〇円で借り受け、廃品の回収をし、回収した廃品を被告青山に買い上げて貰うという形で、仕事をしていた。本件交通事故の現場は、埼玉県所沢市大字上安松六一五番二号先の南北に通ずるアスフアルト舗装のほぼ直線平坦な道路であり、その幅員は約三・五メートルである。加害車の進行方向左側から右道路に交わる私道との交点付近に、コンクリート製直径約二三センチメートルの電柱(東電柱上安松支右5/13)が設置されている。浩之は、昭和五五年六月二二日午後六時三〇分頃右電柱の地上高約二・二メートルの個所にある固定式足場釘につかまり、地上高約一・二メートルの個所にある引込み式足場釘に足をのせ、道路側に背を向けて、電柱に抱きつくようなかつこうで遊んでいた。被告佐藤は、廃品回収のため加害車を運転して時速約一〇ないし一五キロメートルで右道路を北進して来たが、その運転席から電柱に登つていた浩之の姿は充分見ることができた。しかし、被告佐藤は、道路右側の住家から廃品の提供があるのではないかと、前方右側へ注意が傾き、前方左側への注意がおろそかになつていたため、浩之に気ずかず、また、加害車を道路左側端にほぼぎりぎりまで寄せて進行させたため、加害車の一部を浩之の身体に接触させて路上に転落させた上、加害車を浩之の頭部等に衝突させた。このため、浩之は間もなく頭蓋内出血により死亡した。(右事実のうち、被告青山が加害車を所有し、これを被告佐藤に使用させ、廃品回収業をさせていたことは、原告らと被告青山との間に争いがなく、また、被告佐藤が廃品回収のため加害車を運転して右日時に右場所を通りかかつたこと、浩之が右電柱に登つて遊んでいたが、被告佐藤はこれに気ずかなかつたことは、被告佐藤との間に争いがない。)
右事実によれば、被告佐藤は、前方左右を充分注意して運転すべき義務があるのにこれを怠つた過失があるというべきであるから、民法第七〇九条により、また、被告青山は、加害車を自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償補償法第三条本文により、それぞれ本件交通事故によつて被つた原告らの損害を賠償する義務がある。
二 損害
1 亡浩之の損害
(一) 逸失利益 金一六七六万五九六五円
被告青山との間では成立に争いがなく、被告佐藤との間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第三号証、原告ら各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、亡浩之は、昭和四八年二月一四日生(本件事故当時七歳)の健康な男子であつたところ、本件事故にあわなければ、平均余命の範囲で一八歳から六七歳まで稼働し、その間、労働省発表の昭和五四年賃金構造基本統計調査報告書第一巻第一表中の産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の平均年収額である金三一五万六六〇〇円を下廻らない収入を得ることができ、その生活費は収入の五〇パーセントを超えないものであることを推認することができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。これを基礎として、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡浩之の逸失利益の現価を計算すると、金一六七六万五九六五円(一円未満切捨て)となる。
(計算式)
3,156,600×(18.9292-8.3064)×(1-0.5)=16,765,965.24
(二) 慰藉料 金四〇〇万円
以上認定の本件交通事故の態様、事故の結果、亡浩之の年齢、健康状態等、本件弁論に顕われた一切の事情を勘案すると、亡浩之の被つた精神的苦痛を慰藉する慰藉料としては、金四〇〇万円を下らないものと認めるのが相当である。
(三) 合計額 金二〇七六万五九六五円
右(一)及び(二)の合計金二〇七六万五九六五円が浩之の被つた損害額である。
2 相続
前掲甲第三号証及び原告ら各本人尋問の結果によれば、亡浩之の相続人は実父原告博と実母原告文子であり、亡浩之の右金二〇七六万五九六五円の損害賠償請求権をそれぞれ二分の一ずつ相続し、原告らは各一〇三八万二九八二円(一円未満切捨て)の損害賠償請求権を取得したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
3 原告博の損害
(一) 診療費等 金六万一一六〇円
原告博の本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第五号証ないし七号証及び原告ら各本人尋問の結果によると、原告博は、亡浩之の診療費として防衛医科大学校病院に金六一六〇円、文書料として荻野病院に金五万五〇〇〇円、合計金六万一一六〇円を支払い、同額の損害を被つたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
(二) 葬儀関係費用
(1) 葬儀費用等 金八一万六九四〇円
原告博の本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第八号証ないし第二二号証及び原告ら各本人尋問の結果によると、原告博は、亡浩之の葬儀を行い、千代田新生活互助会に葬儀代、花代等として合計金五四万三〇〇円、堀之内葬祭場に部屋代等として金一万九六〇〇円、田中商事株式会社に遺体処置料として金六万七〇〇〇円、月堂等に飲食物代として金一五万五五〇〇円、タクシー会社に参会者のタクシー代として金三万四五四〇円、総計金八一万六九四〇円を支払つたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
(2) 墓地使用料等 金三四万円
原告文子の本人尋問の結果から真正に成立したものと認める甲第二三号証ないし第二五号証及び原告ら各本人尋問の結果によると、原告は、亡浩之のため墓地の使用権を取得し、使用料として金一二万円、外柵等の工事代として金二二万円、合計金三四万円を支払つたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
(3) 損害額 金五〇万円
右(1)及び(2)の葬儀関係費用を合計すると、金一一五万六九四〇円になるところ、本件交通事故と相当因果関係のある費用としては、金五〇万円をもつて相当と認める。
(三) 慰藉料 金三〇〇万円
前記認定の本件交通事故の態様、事故の結果、亡浩之の年齢及び健康状態、その他本件弁論に顕われた一切の事情を総合すると、原告博は、本件交通事故により次男浩之を死亡させられたことにより父親として大きな精神的苦痛を受け、これを慰藉するには金三〇〇万円を下廻らない金額が相当であると認める。
(四) 損害の填補 金九二八万円
原告博が昭和五五年一〇月二日自動車損害賠償責任保険金金九二八万円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがない。
(五) 弁護士費用 金四〇万円
原告ら各本人尋問の結果によれば、原告らは、本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人に委任し、一審判決言渡の日に認容額の一割を費用及び報酬として支払う旨の約束をしたことが認められるところ、被告らに対し賠償を求め得る弁護士費用は、原告博については金四〇万円と認めるのが相当である。
(六) 以上の認定事実によれば、原告博が有する損害賠償請求権の金額は、前記相続分と右(一)ないし(三)との合計額金一三九四万四一四二円から右(四)の損害の填補金九二八万円を控除した金四六六万四一四二円に、右(五)の弁護士費用金四〇万円を加えた金五〇六万四一四二円となる。
4 原告文子の損害
(一) 慰藉料 金三〇〇万円
前記認定の本件交通事故の態様、事故の結果、亡浩之の年齢及び健康状態、その他本件弁論に顕われた一切の事情を勘案すると、原告文子は、本件交通事故により次男浩之を死亡させられたことにより母親として大きな精神的苦痛を受け、これを慰藉するには、金三〇〇万円を下廻らない金額が相当であると認める。
(二) 損害の填補 金八九三万円
原告文子が昭和五五年一〇月二日自動車損害賠償責任保険金金八九三万円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがない。
(三) 弁護士費用 金四〇万円
前記3(五)認定のとおりであり、被告らに対し賠償を求め得る弁護士費用は、原告文子については金四〇万円と認めるのが相当である。
(四) 以上の認定事実によれば、原告文子が有する損害賠償請求権の金額は、前記相続分と右(一)との合計金一三三八万二九八二円から右(二)の損害の填補金八九三万円を控除した金四四五万二九八二円に、右(三)の弁護士費用金四〇万円を加えた金四八五万二九八二円となる。
三 以上の次第であるから、本訴請求中、被告らに対し各自、原告博が本件交通事故に基づく損害賠償金金五〇六万四一四二円及び弁護士費用を除いた内金四六六万四一四二円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五五年六月二三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分、原告文子が同じく金四八五万二九八二円及び弁護士費用を除いた内金四四五万二九八二円に対する右同日から完済まで同じく年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は、いずれも理由があるのでこれを認容するが、その余の部分は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 北川弘治)